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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)3281号 判決

大阪市西成区津守三丁目七番二四号

原告

油野興産株式会社

右代表者代表取締役

間宮陸海

右訴訟代理人弁護士

鈴木良明

東京都千代田区霞ケ関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

下稲葉耕吉

右指定代理人

恒川由里子

長田義博

坂本幹雄

古曽部歩

主文

一  原告の被告に対する納税事務処理の違法確認の訴えを却下する。

二  原告の被告に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟の費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、

1  金六一四二万円及び内金二四七万九六〇〇円に対する平成三年五月七日から、内金四九七八万八三〇〇円に対する平成三年一一月二九日から、内金五五三万四五〇〇円に対する平成四年一月一四日から、いずれも完済まで年一割三歩五厘の割合による金員を支払え。

2  原告に対する金六一四二万円の納税事務処理は背信的悪意に基づく違法な事務処理であることを確認する。

第二事案の概要

本件は、原告の修正申告の所得額が仮装経理により当該事業年度の課税標準とされるべき所得の金額を超えており、被告の機関である税務署長がこの事実を知りながら、法人税法一二九条二項の規定に反して(減額)更正を怠ったため、原告が義務のない法人税を納付せしめられたとして、右の違法確認と国家賠償に基づく損害賠償を求める事案である。

一  基本的事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨により認める事実)

原告は昭和四六年に設立された不動産の賃貸及び売買等を目的とする株式会社であるが、平成二年度二〇期決算(平成元年一〇月一日から平成二年九月三〇日まで)に基づき、平成三年五月七日及び同年一一月二九日に西成税務署長に対し法人税修正申告をし、以下のとおり納付した。

平成三年五月七日修正申告に係る分

法人税 二四七万九六〇〇円

延滞税 七万八〇〇〇円

平成三年一一月二九日修正申告に係る分

法人税 四九七八万八三〇〇円

加算税 五四五万六五〇〇円

延滞税 三六二万三九〇〇円

二  当事者の主張

1  原告

(一) 仮装経理

(1) 原告は株式会社ティー・エス・アイ(旧商号・油野工業株式会社。以下「訴外会社」という。)の赤字を隠すため、訴外会社から、昭和六三年九月三〇日に金型を八一九六万八〇〇〇円で、平成元年一一月三〇日に滋賀県甲賀郡土山町所在の土地建物を金四億一五〇〇万円で購入したことにする仮装経理をした

(2) そして、二〇期決算に当たり、右土地建物及び金型を訴外会社に賃貸する仮装経理をし、損益計算上、不動産賃貸収入金八〇五〇万八〇〇〇円を計上した。

(二) 被告の違法行為

法人税法一二九条二項は、法人の確定申告の所得金額が事実を仮装して経理したところに基づいて、当該事業年度の課税標準とされる所得の金額を超えているときは、その法人が修正の経理をし、かつ、当該決算に基づく確定申告書を提出までの間は更正しないことができるとしているが、この趣旨は、右の場合に、法人が修正決算に基づく確定申告書を提出するまでは、税務署長が更正を猶予できるという裁量権を付与したものであり、逆にいえば、当該法人が修正決算に基づく確定申告を提出しないときは、税務署長には更正する義務があるというべきである。

しかるに、西成税務署長は、原告のなした前記修正申告が前記仮装経理に基づくもので、当該修正申告書の所得金額が課税標準とされるべき所得金額を超えていることを知りながら、更正すべき義務を怠ったものであり、原告は、右税務署長の不作為行為により納入すべき法人税を納付して同額の損害を被ったものであるから、国家賠償法一条一項に基づき右の損害賠償を求めるとともに、右行為の違法確認を求める。

2  被告の反論

原告は仮装決算操作を行っていたと主張するが、このような事実は決算書上も認め難いが、これを仮定したとしても、法人税法一二九条二項は、粉飾決算に基づいて過大な所得を計算していた法人が粉飾をしていた事実について修正経理をし、修正経理をしたことを確定申告書及び添付の財務諸表で明らかにしない限り、原則として減額更正をしないというものであり、西成税務署長の行為に何ら問題もない。

第三判断

一  本訴請求中、国家賠償法に基づく損害賠償請求は、原告が仮装経理に基づく過大な修正申告をした事実を、被告の機関である西成税務署長が知りながら、更正を行わなかった不作為による違法行為により損害を被ったというものであるが、本件全証拠を検討しても、原告が仮装経理に基づき前記修正申告をした事実を認めるに足りる資料は発見できず、まして、西成税務署長が仮装経理の事実を知っていたと認めるに足りる証拠もないから、すでに、この点において原告の請求は失当である。ちなみに、原告は、法人税法一二九条二項に基づく更正義務なるものを主張するが、もともと、右の規定自体は確定した決算に基礎をおいた確定申告による過大申告を対象としたもので、本件のような修正申告による過大申告を問題にするものではないと考えられる。

二  原告は、一と同時に、西成税務署長の行為の違法確認を求めているが、およそ、確認の訴えにあっては、確認の利益が必要なことはいうまでもないところ、原告が本訴で主張する違法確認は、まさに原告が提起したような国家賠償請求に結実させて直截な紛争解決をなし得るのであるから、右行為の違法確認だけを別個に取り上げて確認の訴えを認めるべき余地は存しない。

よって、右確認を求める訴えは不適法として却下を免れない。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邉安一)

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